THE NOUN : NOMINATIVE AND GENITIVE

第 2 章

名詞:主格と属格

 ラテン語のどの名詞も一定不変の2つのもの格変化と性,それと変化する2つのものを持ちます.格変化の型は5つあり,性は3つ――男性・女性・中性――あります.単数・複数の2種類の数と5つの格――主格・対格・属格・与格・奪格――があります.呼格もありますが,これは第9章で扱います.特定の名詞の形を解剖する(parse)とは,その格変化の型・性・数・格の名前を上げることです.名詞を格変化させる,とは語形変化表(パラダイム)でそのすべての形を与えることです.

 格変化と性は,どのような名詞であっても一定不変なので,それぞれの名詞について覚えなくてはなりませんが,それでもときどきそれらは一緒なことがあります(例えば,第一変化のほとんどすべての名詞は女性).数と格は語尾の変化で示されます.

 古典ラテン語には定冠詞も不定冠詞(the, a/an)もありません.ラテン語から発達したロマンス語では,定冠詞は指示形容詞(this/that)から発達しました.そしてときどきこの発達の跡がスヴェーデンボリのラテン語にも見られます.ほとんどの場合,英語の名詞には冠詞が必要です.それで,翻訳者はどれを使うか決定を迫られます★1

 事実上,どの点からみてもラテン語の単数と複数の区別は英語の区別と正確に一致するので解説の必要はないでしょう.性は通常,生物学的な性が可能なとき,それに従いますが,しかしそうでないときは,むしろ予測できないものです.

 格は,ある名詞が文の中で満たしている特別な機能を示します.英語では,このことは語順で表示されます.それで“The boy saw the girl”と“The girl saw the boy”は異なった叙述です. ラテン語では,最初の文は
   “Puer vidit puellam”,“Vidit puellam puer”,
   “Puellam puer vidit”,“Vidit puer puellam”,
   “Puer puellam vidit”,“Puellam vidit puer”,
のどれもありえます.たとえこれらのある文のほうが他よりありえそうであってもです.第二の文を作るには“puer”(少年)を“puerum”(少年)に,“puellam ”(少女)を“puella”(少女)にしなくてはなりません.すなわち,主語と目的語(この場合,見る者と見られる者)の違いが,語の位置によるよりも,むしろ形によって示されます.

 また一方,スヴェーデンボリが通常ヨーロッパ語族の系統に沿った比較的標準的な語順を用いたこと〔第1章参照〕を思い出す読者もいるでしょうが,格変化は,機能を決定する上で常に優先権を持ちます.主格の名詞は,それが文中のどこに出てきても,主格の機能を持ちます.

 主格の基本的な用法は,何について語っているのかといった,話法での主語としての名詞を示します(§17) ★2.……  

 私が,属格に認めることができ,最も言いたいことは,これを非常に広く理解するとき,“支配”ということです――属格の本質は,制御しよう,そのもの自身を広げよう,そのものの存在をそれに(文法的に)付着しているものの中へ現わそうとする傾向です.

 属格の一般的な用法は,前述の私の言いたいことと同じですが,所有(habitationes angelorum, 天使の住居)であって,これは部分(を示す属格)(exteriora hominis, 人間の外側(外見)),物質属格(cor carnis, 肉の心),主格属格★3文法(correspondentia coelorun,天界の対応,これは「天界は対応する」を意味します)と密接に関連しています.

 これよりも問題となるものは目的格属格(amor veri, 「真理への愛」,これは「真理を愛する」を意味します)★4文法です.目的格属格は,おそらく動詞的名詞★5文法を伴った主語が受け身に理解される(真理が愛される)か,または動詞的名詞が再帰的に用いられて(amor sui,自分への愛=自己愛),二次的に発達したものでしょう.

 伝統的な文法では,同時に一つの語形変化を学びます.これはパターンを完全に示せる利点がありますが,示せる語彙が限られてしまう点で不利です.非常によく使われる単語をそれらの語形変化が学ばれるまで用いることができません.本書の終わりに伝統的な形式の「語形変化表」〔省略〕を示しておいたので,本章と第4,7,10章から抜き出して書き加えれば,名詞全体系の全体像を得ることができます.

 実際に語形変化表を作成する練習問題(C.参照)を行なう上でお勧めしたいことがあります.“記憶”が学習の中心となるよう意図してあります.記憶しないで表を完成させることにした人は,自分なりに記憶する訓練をしてください.

 この課で学ぶべき形は,次のものです(各縦列の上の数字は“第〜変化”を表わします)――   

1 2 男 2 中 3 男女 3 中 4 5
主・単 vita angelus verbum amor opus spiritus facies
属・単 vitae angeli verbi amoris operis spiritus faciei
主・複 vitae angeli verba amores opera spiritus facies
属・複 vitarum angelorum verborum amorum operum spirituum facierum
                                   

 すでに述べたように,第一変化名詞は,ほとんど女性です(§22) .第二変化名詞は男性か中性であり,男性と中性の語形変化の間にはわずかな違いがあります.第三変化名詞は,どの性もあり,やはり中性名詞の語形変化は少し違っています.似たような形には特に注意してください.それらの変化形には,まさに両義にとれるものがありますが,しかし通常,どの格なのかは文脈から決定できます.見かけ上同一の語尾であっても,母音の長さで区別されるものもあります★6.しかし,母音の長さはスヴェーデンボリのラテン語で示されることはありませんから,本書でも示しません.教師は,発音によってその区別を示すべきでしょう.

 “語彙”に名詞を並べて置きました.名詞はすべての辞書に単数主格形で載せてあり,その直後にその単数属格が続きます.もしこれら二つの形が知られるなら,残りすべての変化形を導くことができます.それで,それぞれの名詞について,学習者は単数の主格と属格,それと性を記憶しなくてはなりません(これはその語形変化すべてを記憶することと同じです).その中でも,第三変化の単数主格は,決定的な語尾を持たないので独特です.ある種のパターンがあると言えばありますので,それをあとで注記しておきます★7

 ラテン語の名詞は,語幹に語尾を付け加えたものからでき上がっていると見なすのが便利です.与えられたどのような語幹も,単数属格から語尾を落とすことで得られます.それで,何を落とすべきか知ることが必要となります.単数属格の語尾は,格変化の順に,次のものです――
   (1) -ae
   (2) -i   
   (3) -is
   (4) -us
   (5) -ei

語 彙 [2]

(最初の形は単数主格です.これに今のところ単数属格の完全な形が,続きます.それでも後にはしばしばこれはただ単数属格の語尾だけが示されます.ここに与えられた意味はおおよそのものです.辞書で調べるための指針は,第20章にあります)
amor, amoris (m) 愛 love
angelus, angeli (m) 天使 angel
charitas, charitatis(n)*1 仁愛“dearness”, charity
corpus, corporis(n) *2 肉体 body
Deus, Dei (m) 神 God
Domimus, Domini(m) 主 the Lord
facies, faciei (f)*3 顔 face
fides, fidei (f) 信仰 faith
opus, operis (n)*4 行ない,働き deed, work
spiritus, spiritus (m)*5 霊,精神 spirit
verbum, verbi (n) *6 言葉 word
Verbum, Verbi (n) みことば the Word
vita, vitae (f) *7 いのち,生活 life

(m.= 男性,f.= 女性,n.= 中性,すべて名詞です)

●“語彙”に親しみを感じればと思い,以下に“英語の語源”などを示します.
*1 “charity”の語源.
*2 “corpus”の語源.
*3 “face”の語源.
*4 “opus”(【音楽】作品)の語源.複数形“opera”(オペラ,歌劇)
*5 “spirit”の語源.
*6 “verb”(動詞)“verbal”の語源.
*7 “vital”の語源.森鴎外『ヰタ・セクスアリス』

練習問題

(注意:練習問題Aの文にはあまり意味がないものがあります.翻訳する上で,実際に書かれていることと,こう書いてあるに違いないと思ってしまうことの違いを示すため意図的に作ってあります)

A.訳しなさい.  
1. corpora angelorum 2. spirituum facies
3. Verbum Domini 4. angelus vitae
5. angeli vita 6. vita corporis
7. opera charitatis 8. corpus spiritus
9. vita verbi 10. Dominus vitae
11. fidei facies 12. corpus angeli
13. angeli corporum 14. opera vitae
15. operum vita 16. amor fidei spirituum
17. fides amoris spirituum 18. vita amoris angelorum Domini  
19. amoris Dominus 20. corpus Verbi

B.ラテン語に訳しなさい〔この問題は今後とも省略します〕.

C.記憶とペンで  
 今日学んだ形を本書の後ろの適当する語形変化表に記入しなさい.それからチェックし,必要な訂正をしなさい.これはあなたの学習のためのもの,また将来のあなたが参照するためのものともなります.



★1 もちろん,ここは“英語使用者”を対象としています.
★2 参考のため『楽しく学ぶラテン語』(大学書林・小林標著)に解説されている箇所の番号(§)を付けておきます. (“まえがき”の凡例2)
★3 【文法】subjective genitive (主格属格)「主語的な属格」の意味.   例えば The doctor's arrival (医者の到着)の doctor's.
★4 【文法】objective genitive (目的語的な属格,§169)  例えば father's murderers (父を殺害した者たち)の father's.
★5 【文法】verbal noun (英文法では)動名詞と不定詞を指します.
★6 ここに示された単語で言えば, 第四変化名詞の単数主格の“スピリトゥス”と属格(複数も)“スピリトゥース”の違いです. 他の例では第一変化名詞の単数主格と単数属格がそうです.
★7 このように述べていますが,以下に見当たりません.