SWEDENBORG´S LATIN
第 1 章
スヴェーデンボリのラテン語
では,スヴェーデンボリの神学著作に見いだされるラテン語に取りかかりましょう.最初に,これは中世のラテン語ではなく,語彙,形態,構文ともに古典的ラテン語への意識的な復古または回帰であると観察されるでしょう.『霊界体験記』の中でよく見られる後期ラテン語の形式さえも,神学著作の中では避けられており,それに相当する古典的なものに変えられています.この“新ラテン語”と古典的ラテン語そのものとには違いがあります――それらのいくつかはそれが出てきたときに注意します★1.
語彙については,ポッツの『コンコーダンス』★2の最終巻に,おおよそ3,500語の見出し語があり,その大部分は古典ラテン語の辞書にも載っています.それでも,神学概念を表わすための基本的な語彙ははるかに数少なく,また多くの単語はさらに少ない共通語根(common roots)の周りに群れをなしています.“難解な”語彙の大部分は,聖書の引用,記憶すべき物語★3,説明部分に見いだされます.
文章構成(統語法・シンタックス)でもまた,スヴェーデンボリは明らかに平易な形を選んでいます.若い頃,彼は飾り立てた詩や美辞麗句に満ちた献辞を書いていますが,神学に転じた時には,非常に率直で,手際のよい散文を取り入れています.構文の構成単位は全体的に短く,語順は単純です.
歴史的に,ラテン語は英語と同じ祖先をもつ別系統の子孫であり,同族語です.北フランス語を通して,またラテン語の様式を故意にまねて,英語はラテン語の影響を受けてきました.
このような関係から,ラテン語と英語には,シンタックスにも語彙にも,多くの類似性があります.こうした類似性は表面的であり,誤りやすいものであって,このことは大切なので最初に覚えておいてください.この類似性はしばしば意味を知る上での手がかりとなりますが,正確な意味を定めることは期待できません.
スヴェーデンボリの用いたラテン語でのシンタックスをざっと眺めてみれば,語や語の集団が演じる基本的な機能(function)の数は限られているのがわかります.それらは容易に5つと定められ,それらの名前は,名詞的,動詞的,修飾的,副詞的,接続的機能です★4.
名詞的機能(名詞)では,語または語群は,本質的な構造の上で,性質のカテゴリー(category,範疇)を示します.これらのカテゴリーには,物・人・場所・概念・性質など,どんなものでも含まれるでしょう――識別されて定められたそれらの特徴は,時間を超越した基本的にさらに大きなひとまとまりの構成要素であるように思えます.文章中では,それらは作用するもの,あるいは作用されるものとして,ある状態にあるもの,あるいはある特徴を持つものとして現われるでしょう.すなわち,それらは他の並行する実在のアスペクト(外観・様子・局面)と,何らかの直接,あるいは間接の関係に置かれます.
動詞的機能(動詞)では,語または語群は,経過または状態のカテゴリーを示します.その経過または状態は,通常,定まった期間かまたは少なくとも時間の中ではっきりと識別できる位置にあります.この理由から,動詞には,時(tense ,時制)や叙法★5文法(mood,法)を示すものが規則的に含まれます.
修飾的機能(形容詞)では,語または語群は,名詞にさらに正確な定義を与えるために用いられます.副詞的機能(副詞)では,動詞,形容詞,他の副詞に,さらに正確な定義を与えるために用いられます.
最後に,接続詞は,文章中で大小の構成要素間の特別な関係を示すために使われます.接続詞は言語の要素としてしばしば最も軽く見られてしまいますが,しかし,意味の微妙なあやを生きいきと伝えるものです.なぜなら,しばしば正確な意味を定義しにくいように思える抽象的な性質の間の関係を示すからです.
序論で述べたように★6,異なった言語は,その構成要素が働く機能を異なった方法で示します.英語での根本的な仕組みは語順です.それで“He bears arms”(兵器を携える)という文では,語順から“bears”が動詞であり“arms”が名詞であることが示されます.一方,“He arms bears”(熊に備える)という文では,語そのものには変化がないように見えても,語順の逆転が機能の逆転を示しています.これに似た現象“a passenger airplane”(旅客機)と“an airplane passenger”(飛行客)の違いに注意するのもよいでしょう.
これと対比して,ラテン語の単語は形式の中で存在し,そして(“格語尾”のように)形の変化を見せます.このことからしばしば,どんな文脈からもまったく離れて,読者は“機能”を同定することができます.これらの変化にはパターンがあり,さらにまた,ひとそろいのパターンになったものもあります.あるパターンは名詞に,またあるパターンは動詞に適用されます.形式的な共通点――例えば,(活用)語尾――といったものが存在し,それは名詞と動詞の両方に見られるでしょう――しかしひとそろいのパターンそのものは区別されます.
語形の変化によって機能を伝えるこの手段は,屈折(inflection)として知られています.ラテン語では,名詞的パターンは格変化(名詞・形容詞は格が変化します,declensions),動詞的パターンは活用(動詞は活用します,conjugations)として知られています.パターンを形成する規則正しい表を語形変化表(パラダイム,paradigm)と呼びます.
スヴェーデンボリは屈折を極めて正確に守ったことに加えて,通常,基本的に“ヨーロッパ言語”の語順も守ったことに注目すべきです.多くの場合,このことは読解を容易にします.それでも,もし語順と屈折が一致しないように見えるときは,屈折を優先させなければなりません.語順によるなら読み誤るでしょう.
どんな言語にも,認められるパターンに従わない語があるでしょう.例えば,英語の“seat, seated, seating”(座る)や“bless, blessed, blessing”(祝福する)はパターンとして明らかに同じですが,同じ動詞でも“is, was, being”は明らかに違います.確立されたパターンに従わない語は不規則(irregular)と呼ばれます.それらは数では少ないでしょうが,しかし,しばしば非常によく使われる語が含まれます.
言語のシンタクッス(統語法)を調べるには,変形を利用する方法が効果的です.単純な文を取り上げ,例えば,その時制を変えて,これがどんな結果になるかを見ます.ここから,しばしば以前には気づかなかったパターンが浮き上がってきます.
英語では,「肯定→否定」や「叙述(平叙文)→疑問」の変形が導入例として役立つでしょう.現在の行動を描くとき,私たちには3つの選択枝があります.“I am eating sauerkraut★7”(単純現在〔食べている〕),“I do eat sauerkraut”(強調の現在〔食べるんだ〕),あるいは“I eat sauerkraut”(習慣的現在,〔食べる,食べることをする〕)と言うことができます.これらの文それぞれを否定文にすれば,“I am not eating sauerkraut”(単に“not”を付け加える),“I do not eat sauerkraut”(強調して“not ”を付け加える),そして,習慣的現在に対しては,“I don't eat sauerkraut”(強調しない“not”を強調の現在に付け加える)が作れます.
対応する変形を他の動詞と他の主語で調べれば,このパターンが一貫して繰り返されるのが見いだせます.そこで(記述的な!)法則として述べることができます.
叙述(平叙文)→疑問の変形でも,同じような状況を見いだせます.今上げた3つの例に対し,単純現在には“Am I eating sauerkraut?”,強調の現在には“Do I eat sauerkraut?”,そして習慣的現在に対しては,“Do I eat sauerkraut?”が作れます.前の2つは語順の変化と強調〔ゴシックで示してあります〕が要求され,3つ目は結局のところ強調と似てしまっています.
特に注意してほしいのは,これらの特別な“不規則性”は,その規則がほとんど教えられないか,述べられていないにもかかわらず,広く観察されることです.あなたはだれかが“Him and me eat sauerkraut”と言うの聞くかもしれません,これは,知られ,教えられている規則を破っています.
しかしおそらく“I eat not sauerkraut”と言うのを聞いたことはないでしょう.
……★8
練習問題
(“図式法”“変形”の練習問題なので省略します)
注
★1 このように述べていますが,この違いを記述した箇所は,以下に見当たりません.
★2 J. F. Potts,“The Swedenborg Concordance”,6 volumes, THE SWEDENBORG SOCIETY. 本書第20章参照.
★3 『真のキリスト教』『啓示された黙示録』『結婚愛』の各章末部分の物語(メモラビリア)のことです.
★4 (老婆心ながら)以下,そうとうに難しい記述が続きます.ゆっくり何回も読んで,理解されることを望みます.
★5 【文法】叙述内容を話者が事実としてとらえているか仮定としてとらえているかなどの区別を示す動詞形態.
★6 「言語の特徴として……,そのシンタックス(統語論)が違う」の部分でしょう.
★7 “sauerkraut”とは塩漬け発酵キャベツ,ザウアークラウト(ドイツ料理の付け合わせ).
★8 英語使用者に対して,文法事項を説明するための“図式法”が紹介されており,日本の読者にとって直接には関係ないので省略します.